【新華社太原8月17日】しとしとと降る秋雨の中、太行山の奧深くに位置する山西省盂県七東村はとりわけ靜かだった。一軒の真新しい農家を訪ねると、母屋の隣の建物はがらんとし、母屋には20日余り前にこの世を去った96歳の曹黒毛さんの遺影が置かれていた。
曹さんは少女時代に日本が起こした侵略戦爭のもたらした苦難と屈辱に遭った。10代の時、舊日本軍に蹂躙され2度妊娠したが死産だった。それが原因で子どもを産めない體になってしまった。
元「慰安婦」らは悪夢を心の奧底にしまい込んでいるが、恐ろしい経験はずっと彼女らを苦しめている。曹さんも例外ではなく、「中國『慰安婦』民間調查の第一人者」と呼ばれる張雙兵さんを自ら訪ね、心のうちを打ち明けたことがあった。
今年65歳の張さんは村の教師だった。30年余りの間、100人余りの「慰安婦」被害者を訪ね、その狀況を記録するとともに、16人の被害者が実名で日本政府を訴え、公の謝罪と賠償を求めるのを支援した。この訴訟は日本の最高裁判所の判決で敗訴となったが、張さんは今なお爭う構えだ。
「ひどい目に遭ったが、裁判に勝っても負けても、皆死んでしまった」曹さんは「慰安婦」を題材にした映畫「大寒」のスタッフの取材にこう答えていた。
過去の悲慘な記憶が心に深く刻まれており、こうした「割り切る」には強い心、信念、自信が必要だったことが想像できる。 90歳になる元「慰安婦」の郝月連さんは晝も夜も眠ると誰かに毆られる夢を見るという。
記者が「誰に毆られるの」と聞くと、郝さんは「分からない。日本兵を死ぬほど憎んでいる。私をさらって行った」と言ってから黙ってしまった。
郝さんもかつて張さんに自らの不幸を打ち明けた。わずか15歳の時、日本兵に武郷県南溝の拠點に2度連れて行かれ、父親と兄が救い出して連れ帰ったが、この時に子供を産めない體になった。その後八路軍兵士に嫁ぎ、養女を育てたという。
養女の程愛仙さんが太原市清徐県の家で郝さんを記者に會わせた。郝さんが母屋の奧の間、程さん夫婦は隣の部屋に暮らしているので世話はしやすいという。部屋は奇麗に片付いていて、體が細く小さい郝さんはベッドに座っていた。歩くには手助けが必要だ。
中國を侵略した日本軍の話をすると、郝さんはいくらか感情が高ぶり、辛い表情を浮かべた。「憎らしい、私たちに謝るべきだ」 郝さんと比べ、程さんは謝罪と賠償に対する関心が希薄で、母親には晩年を安らかに送ってほしいとだけ思っている。「母は若い時に被害に遭っているので私が母に良くしてあげないといけない、何でも母に合わせてあげないと」 程さんが感動したのは、ここ數年、毎年、郝さんに會いに、山西、北京、上海、香港などから訪れる人が少なくなく、さらには外國人もいることだ。郝さんはベッドに子犬、小鳥、羊のぬいぐるみを置き、腕には銀のブレスレッドをつけている。どれも贈り物だという。
中國「慰安婦」問題研究センターの集計によると、第二次世界大戦期間に、約40萬人のアジアの女性が日本軍の「慰安婦」にされ、うち20萬人余りが中國人女性だった。
これまでに登録された中國大陸の元「慰安婦」の中で存命者はわずか15人となっている。上海師範大學教授で、中國「慰安婦」問題研究センター主任の蘇智良氏は次のように説明した。この方たちの平均年齢は90歳を超え、最年長は98歳で、みな體調が良くなく、大多數が子や孫の世話になっている。彼女たちを気にかけている思いやりのある人たちがますます多くなっている。
日本(政府)を訴えた中國大陸の24人の元「慰安婦」被害者・原告はみな亡くなっている。誰も謝罪や補償を受けていない。張雙兵さんは彼女らのいまわの際に、いい知らせがあったら必ずお墓に報告にいくと約束していた。「訴訟から10年余り、彼女らにどう顔向けしていいかわからない。もういいかとも思うが、良心がそれを許さない」 張さんのやってきたことに感動した映畫監督の張躍平氏は映畫「大寒」を完成させた。8月14日の世界「慰安婦」記念日に全國で上映される。この映畫は張雙兵さんが聞き取りした元「慰安婦」の人たちの心がたどった道のりを視點として、舊日本軍による中國侵略戦爭が主人公の崔大妮や村人にもたらした苦難と屈辱を描いている。戦爭から70年余り経って、主人公は自らの溫もりで心の中の「氷のわだかまり」をゆっくりと解かし、最後には「春が來た」と心の底から聲を上げている。
「慰安婦」の三文字は民族の苦難と屈辱が込められ、われわれは自らの溫もりで「氷のわだかまり」を解かした苦しい道のりを絶対に忘れてはならず、歴史を銘記し、畏敬してこそ未來の道をよりしっかりと歩くことができると張氏は語った。
曹黒毛さんは生前「子どもたちよ、玄関をしっかり守りなさい。二度と勝手に蹴り破られ勝手に入られてはならない」と話していた。
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